ブランデー格付けの教科書:ランクとコントの違いから読み解く熟成の秘密

更新日:2025年04月24日

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ブランデーは長い歴史と伝統を持つ蒸留酒であり、その奥深い味わいと香りで世界中の人々を魅了してきました。しかし、ブランデーの世界に足を踏み入れようとすると、「VSOP」「XO」「ナポレオン」や「エクストラ」といったランクの表記や「コント」など、様々な専門用語に戸惑うことがあるかもしれません。本記事では、ブランデーを楽しむための基礎知識として、ランクとコントの違いを中心に、ブランデーの世界をわかりやすく解説していきます。

ブランデーの世界への第一歩

ブランデーとは、果実酒のひとつであるワインやシードルなどを蒸留して作られる蒸留酒の一種です。「ブランデー」という名称はオランダ語の「ブランデヴェイン(Brandewijn)」が語源とされ、「焼いたワイン」という意味です。その起源は16世紀頃のオランダにまで遡ります。当時のオランダ商人たちがフランスからのワイン輸送中の品質劣化を防ぐために蒸留を行ったのが始まりとされています。

ブランデーの魅力は、その複雑な香りと深い味わいにあります。熟成によって生まれる芳醇な香りは「ブーケ」と呼ばれます。樽熟成由来のバニラやキャラメル、トースト香、果実由来のドライアプリコットやプラム、レーズン、熟成が進むとチョコレートやコーヒー、トリュフのような複雑な香りも現れてきます。これらの香りが何層にも重なり、一口飲むごとに異なる表情を見せるのが、ブランデーの醍醐味です。また、琥珀色から深い茶色まで、熟成年数によって変化する色合いも、ブランデーを楽しむ上での重要な要素です。

初めてブランデーを飲む方にとっては、強いアルコール感と複雑な風味が少し敷居が高く感じられるかもしれません。しかし、基本的な知識を身につけ、自分の好みに合ったブランデーを見つけることができれば、その奥深い世界に魅了されることでしょう。

ブランデーを理解する上で重要なポイントは、「種類」「等級(ランク)」「熟成年数(コント)」の三つです。これらの知識を身につけることで、店頭でブランデーを選ぶ際の手助けになるだけでなく、飲む際の楽しみも何倍にも広がります。

種類を知る

ブランデーは原料や製法、生産地域によって様々な種類に分けられます。それぞれに特徴的な風味や香りがありますが、ここでは主要なブランデーの種類について解説します。

世界三大ブランデーである「コニャック(Cognac)」「アルマニャック(Armagnac)」「カルヴァドス(Calvados)」はすべてフランスで作られており、AOC(Appellation d'Origine Contrôlée/原産地呼称統制)というフランスの法的規制に基づいて製造されています。AOCは、特定の地域で生産される商品がその品質や製法を保つための認証で、認定を受けたものだけが「コニャック」「アルマニャック」「カルヴァドス」と表示することができます。

コニャックとアルマニャックは「グレープ・ブランデー」の一つで、白ブドウを原料としています。原料とするブドウの品種は類似していますが、コニャック花のような香りフルーティー軽い味わいアルマニャックスパイシー深みのある味わいと風味は大きく異なります。各々の詳細な規定は以下の通りです。

  コニャック アルマニャック
AOC
管理者
BNIC(The Bureau National Interprofessionnel du Cognac)
/コニャック事務局
BNIA(The Bureau National Interprofessionnel de l'Armagnac)
/アルマニャック事務局
製造地 コニャック地方
アルマニャック地方
原料 コニャック地方で作られた以下の品種の白ブドウ
ユニ・ブラン
フォル・ブランシュ
コロンバール
ジュランソン・ブラン
メリエ・サン・フランソワ
モンティル
アルマニャック地方で作られた以下の品種の白ブドウ
ユニ・ブラン
フォル・ブランシュ
コロンバール
ジュランソン・ブラン
メリエ・サン・フランソワ
モンティル
オランジェリー
ラザラン
プティ・マン
カヌエ
蒸留回数 シャラント式単式蒸留器で2回
連続式蒸留器で1回もしくは
シャラント式単式蒸留器で2回
熟成 フランス・リムーザン地方産のオーク樽で2年以上
オーク樽で1年以上
アルコール
度数
40%以上 52%未満

カルヴァドスは「フルーツ・ブランデー」の一つで、リンゴもしくは洋梨を原料としています。リンゴ由来のフルーティー爽やかな味わいが特徴です。カルヴァドスは原産地呼称により規定が大きく異なっており、各々の詳細な規定は以下の通りです。

  カルヴァドス・
デュ・ペイ・ドージュ
カルヴァドス・
デュ・ドンフロンテ
カルヴァドス
製造地 ペイ・ドージュ地域 ドンフロンテ地域

ペイ・ドージュ地域
ドンフロンテ地域を含む
カルヴァドス周辺地域

原料 ノルマンディー産のりんご48品種
洋梨の
使用量
30%以下 30%以上 規定なし
蒸留回数 単式蒸留器で
2回蒸留
連続式蒸留器で
1回蒸留
規定なし
熟成 オーク樽で2年以上 オーク樽で3年以上 オーク樽で2年以上
アルコール
度数
40%以上 40%以上 40%以上

スペインの「ブランディ・デ・ヘレス(Brandy de Jerez)」は、アンダルシア地方ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ周辺で作られるブランデーです。「グレープ・ブランデー」の一つで、白ブドウを原料としています。最大の特徴は、シェリー酒の樽(シェリー樽)で熟成されることです。この地域はシェリー酒の生産で世界的に有名ですが、そのシェリー造りの伝統がブランデー製造にも活かされています。シェリー樽由来のナッツやレーズン、ドライフルーツの風味が豊かで、甘美で温かみのある味わいが特徴です。

キルシュヴァッサー(Kirschwasser)」は、ドイツ・シュヴァルツヴァルト地方スイスフランス・アルザス地方と広域で作られているブランデーです。「フルーツ・ブランデー」の一つで、サクランボを原料としています。「キルシュ(Kirsch)」はドイツ語でサクランボを意味し、「ヴァッサー(Wasser)」は水を意味するため、直訳すると「サクランボの水」となります。その名の通り、フレッシュなサクランボの果実香が感じられ、アーモンドやマジパンのニュアンスにかすかな苦味が複雑に絡み合った風味が特徴です。

熟成年数を知る:コントとは

コント(Compte)」とは、フランス語で「数える」や「計算する」を意味し、ブランデーにおいては樽内でブランデーが熟成された年数を指します。コニャックとアルマニャックでのみ使用される考え方で、その他のブランデーでは通常通り「熟成年数」を使用します。

「熟成年数」と「コント」の違いはカウントの周期です。熟成年数は蒸留して樽詰めした時点からカウントするのに対し、コニャックのコントでは「4月1日から翌年3月末日」、アルマニャックのコントは「5月1日から翌年4月末日」の周期でカウントされます。例えば、2000年4月1日と2001年3月31日に蒸留したコニャックであれば、どちらも2001年4月1日から「コント0」とカウントが始まり、2002年の4月に「コント1」になります。アルマニャックも日付がずれるだけで考え方は同様です。

コントを知ることの価値は、より正確な熟成度合いを理解できる点にあります。後述のランクは最低熟成年数を示すのに対し、コントは実際の熟成年数を知ることができます。例えば、コニャックでXOと表示されたブランデーは最低10年の熟成が義務付けられていますが、実際には20年、30年と熟成させているケースもあります。その違いを知るためには、コント表示が非常に有用となります。

ただし、熟成年数の長さは必ずしも品質の高さと直結するわけではありません。若い熟成のフレッシュな果実味を好む方もいれば、長期熟成の複雑な深みを楽しみたい方もいるでしょう。コントの概念を知ることで、そうした選択の幅が広がります。熟成年数による味わいの変化は以下の通りです。

熟成期間 風味
1〜3年 比較的フレッシュ軽やかな果実味が感じられるフルーティーな味わいです。オーク樽による風味はまだ強くなく、アルコールの刺激がやや感じられることもあります。若干の荒さがあり、飲み口が少し鋭く、まろやかさはまだ発展していません。
4〜10年 風味に深みが出て、フレッシュフルーツからドライフルーツやナッツ・スパイスのような複雑な味わいに変わります。オーク樽由来の風味が現れ、木の香りやバニラ、キャラメルのニュアンスも感じられることが増えます。アルコールの刺激が抑えられ、口当たりがまろやかになります。
10〜20年 ドライフルーツやジャムのような果実感と熟成によるスパイシーさやチョコレート・ナッツの風味で非常に複雑で深い味わいになります。オーク樽からの影響が強く、バニラやトフィー、時には煙草や革のような香りも現れることがあります。まろやかで滑らかな口当たりで、アルコール感はほとんど感じられず、長い後味が心地よく続きます
20年以上 非常に深い、時にはミステリアスな風味を持つことがあります。フルーツやナッツに加えて、蜂蜜、ウッディな香り、さらにスモーキーやオイリーなニュアンスが現れることもあります。絶妙に滑らかで、まるで溶けるような口当たり。濃厚でありながらも後味はすっきりと清涼感を残します。

等級を知る:ランクとは

ブランデーの「ランク」とは、そのブランデーの品質や熟成度を表すための等級制度です。特にコニャックやアルマニャック、カルヴァドスのフランス産ブランデーでは、この等級制度がAOCによって厳格に定められています。そのため、ブランデーのランクという場合は一般的にコニャックやアルマニャック、カルヴァドスの等級を指します。

ランクは主に熟成年数によって決まります。その製品に使用されたブランデーの中で「最も熟成期間が短いもの」を基準に使用できるランク表記が決まり、その中から表示するランクを選ぶことができます。各コント(熟成年数)毎に使用可能なランク表記をまとめたものが以下になります。メジャーな表記は太字で記載しています。

コント
(熟成年数)
コニャック アルマニャック カルヴァドス
1 出荷不可 ・3 etoiles
・VS
出荷不可
2 ・3 etoiles
・VS
他:「Sélection」「De Luxe」「Millésime」
・3 etoiles
・VS
他:「Trois Pommes」
3 他:「Supérieur」「Cuvée Supérieure」「Qualité Supérieure」 他:「Réserve」「Vieux」
4 ・VSOP
他:「Réserve」「Vieux」「Rare」「Royal」
・VSOP ・VSOP
・VO
他:「Vieille Réserve」
5 他:「Vieille Réserve」「Réserve Rare」「Réserve Royale」
6 ・Napoléon
他:「Très Vieille Réserve」「Très Vieux」 「Héritage」「Très Rare」「Excellence」「Suprême」
・XO
・Napoléon
・Hors d’age
他:「Extra」「Très Vieille Réserve」「Très Vieux」
10 ・XO
・Hors d’age
他:「Extra」「Ancestral」「Ancêtre」「Or」「Gold」「Impérial」
・XO
・Hors d’age
14 ・XXO

一方、これら以外のブランデーは、比較的自由にランク名称を設定できます。多くのブランデーメーカーは、消費者への訴求力を高めるため、実際の熟成年数にかかわらず、フランス産ブランデーの「VS」「VSOP」「XO」などのメジャーなランク表記を模倣する傾向があります。各々のランクは以下のような意味合いになります。下に行くほど等級が高いランクの名称になります。

名称 意味
V.S. Very:非常に
Special:特別
V.O. Very:非常に
Old:古い
V.S.O.P. Very:非常に
Superior:優良な
Old:古い
Pale:透き通った
X.O. Extra:特別に
Old:古い
XXO. Extra:特別に
Extra:特別に
Old:古い

知識を味わいに変える:ブランデー選びのコツ

ここまでブランデーのランクとコントについて詳しく解説してきましたが、最終的に重要なのは、これらの知識を実際のブランデー選びにどう活かすかです。以下に、ブランデーを選ぶ際のコツをいくつかご紹介します。

まず、自分の好みや飲み方に合わせてランクを選ぶことが大切です。カクテルやミキサーで割って飲む予定であれば、VSクラスのブランデーで十分です。フレッシュな果実の風味が活きて、コストパフォーマンスも良好です。一方、ストレートやロックで楽しみたい場合は、最低でもVSOPクラス、できればXOクラスを選ぶと満足度が高くなるでしょう。

次に、自分の味覚の傾向を知ることも重要です。フルーティーで軽やかな味わいが好きな方は、若めのブランデーコニャックが向いています。一方、深みのある複雑な風味が好きな方は、長期熟成のXOクラスアルマニャックが適しているでしょう。

初めてブランデーを購入する場合は、有名メーカーの定番商品から始めるのがおすすめです。レミーマルタン、ヘネシー、クルボアジェ、マーテルなどの大手メーカーは、安定した品質のブランデーを提供しています。経験を積んだ後に、小規模生産者や特定の年のヴィンテージものに挑戦するのも良いでしょう。

最後に、ブランデーは「正解」のある飲み物ではないことを忘れないでください。どれだけ高価なXOよりも、自分の舌に合うVSOPの方が「良いブランデー」なのです。ランクやコントの知識は、あくまで選択の手助けとなるものであり、最終的には自分の感覚を信じて選ぶことが大切です。

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