アルトの名前の由来と歴史

「アルト」はドイツ語で「古い」を意味します。19世紀にラガー酵母を使った下面発酵が主流になっていく中で、それ以前から続く上面発酵の製法を守り続けたビールを区別するために、この名前が付けられました。

アルトの歴史はデュッセルドルフと深く結びついています。1838年に創業したシューマッハー醸造所は、アルトビールの名を使った最初期の醸造所のひとつとされ、以来この街の看板ビールとして受け継がれてきました。

デュッセルドルフは夏に極端な暑さにならず、冬も厳しい凍結が少ない穏やかな気候です。年間を通じてエール酵母の発酵管理がしやすく、アルト醸造に適した土地でした。約70km南のケルンではケルシュという別の上面発酵ビールが発展しており、両都市は今もライバル意識を持ちながらそれぞれの伝統を守っています。

ドイツでは1516年制定のビール純粋令により、ビールの原料は麦芽・ホップ・水・酵母の4つに限られています。この制約の中で醸造者たちは原料の配合と製法を工夫し、アルト固有の味わいを磨いてきました。

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アルトビールの味わいの特徴

アルトの外観は琥珀色から濃い銅色で、透明感のある美しい色合いです。グラスに注ぐと、焙煎した麦芽由来のトーストやビスケットのような香ばしさが立ち上がります。

口に含むとまず感じるのは麦芽のまろやかな甘みです。カラメルやパンの皮を思わせる風味が広がった後、ドイツ産ホップのしっかりした苦みが追いかけてきます。苦みの指標であるIBUは25〜50程度で、甘みと苦みのバランスが取れた味わいです。

エールのような華やかなフルーツ香を期待すると、意外なほどクリーンで落ち着いた印象を受けるかもしれません。このラガーに似たすっきりした後味こそがアルト最大の個性であり、次のセクションで説明する製法によって生まれます。アルコール度数は4.5〜5.5%程度で、日常的に飲みやすい強さです。

アルトが上面発酵なのにラガーに似る理由

アルトの飲み口がラガーに近い理由は、上面発酵と低温熟成を組み合わせた二段階の製法にあります。この製法がエール酵母の個性を残しつつ、ラガーのようなクリーンさを実現しています。

発酵と熟成の二段階製法

一次発酵ではエール酵母を使い、16〜19℃で約1週間かけて発酵させます。この温度帯はエール酵母にとってやや低めで、フルーティなエステルの生成を控えめに抑えます。

発酵が終わると、ビールは0〜5℃のタンクに移され、4〜8週間の低温熟成に入ります。この工程はラガーの「ラガリング」と同じ原理です。低温環境で酵母がゆっくり活動を続け、発酵中に生じたエステルや硫黄化合物などの雑味成分を再吸収していきます。この長い熟成期間が、アルトのまろやかでクリーンな味わいを生み出しています。

つまりアルトは、エール酵母で発酵させながらラガーの熟成工程を経ることで、両方の長所を兼ね備えたビールになっています。

アルトの製法は二段階で、まずエール酵母を使い16〜19℃で約1週間の一次発酵を行い、次に0〜5℃まで温度を下げて4〜8週間の低温熟成で酵母が雑味成分を再吸収することで、エールの風味の豊かさとラガーのクリーンな後味を兼ね備えた味わいが完成する

麦芽とホップの配合

アルトの琥珀色と風味は、複数の麦芽の組み合わせから生まれます。ベースとなるのは、淡色でクリーンな風味を持つピルスナーモルトで、全体の約80%を占めます。残りにはパンやビスケットのような香ばしさを持つミュンヘンモルトや、より淡く軽いキャラメル風味のウィーンモルトを加えることで、香ばしさとボディの厚みが加わります。さらに糖化処理によって甘みと色を強めたカラミュンヘンを少量使い、琥珀色の色合いと甘みの複雑さを出しています。

ホップはドイツ産のシュパルトが代表的です。テトナンガーやハラタウアーも使われ、いずれもハーブ的でやや辛みのある香りが特徴です。華やかなアロマホップではなく、麦芽の甘みを引き締める苦みの骨格を担う役割です。

アルトの種類と違い

アルトはデュッセルドルフ以外の地域でも造られており、日本国内でも愛知県の金しゃちビール アルト、新潟県の八海山ライディーンビール アルト、鎌倉ビール 月などアルトスタイルのクラフトビールが醸造されています。ですが、デュッセルドルフこそがアルト文化の発祥地で、アルトの真髄はデュッセルドルフの旧市街に集まる醸造所にあります。ここでは代表的な醸造所の特徴と、特別醸造のシュティッケについて紹介します。

定番のデュッセルドルフ・アルト

デュッセルドルフ旧市街には、アルト醸造の伝統を守る醸造所が集まっています。中でも代表的な4つの醸造所が、それぞれ異なる味わいのアルトを提供しています。

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醸造所味わいの傾向
ツム・ユーリゲ苦みがしっかりした辛口で、個性が強い
イム・フュクスヒェン苦みはありつつも飲みやすい
シューマッハーバランス型で穏やかな仕上がり
ツム・シュリュッセル軽やかで飲みやすい

四つの醸造所はいずれも旧市街に位置しており、徒歩で巡りながら飲み比べができます。アルコール度数は4.5〜5%程度で、いずれも食事と合わせて何杯でも飲みやすい設計です。

特別醸造のシュティッケ

シュティッケは「秘密」を意味するデュッセルドルフの方言に由来し、醸造者が常連のために特別に仕込んだ強化版アルトが起源です。麦芽とホップの使用量を増やして醸造され、アルコール度数は約6%になります。通常のアルトより濃厚な麦芽感と力強いホップの苦みが特徴です。

さらに上位のドッペルシュティッケは度数が約8.5%に達します。濃密なカラメルの甘みと深い苦みが重層的に広がる、特別な一杯です。

シュティッケ、ドッペルシュティッケともに年に数回の限定醸造です。ツム・ユーリゲでは1月と10月の第3火曜日にシュティッケが解禁され、地元のファンが醸造所に詰めかけます。

アルトの楽しみ方

アルトは炭酸が抜けやすいため、小さめのグラスで少量ずつ飲み切るのが向いています。色を楽しみたい場合は、ブランデーグラスのような丸みのある形もおすすめです。伝統的にはシュタンゲと呼ばれる小ぶりな円筒形のグラスが使われます。

デュッセルドルフのブラウハウスではグラスが空くと給仕人が次の一杯を運んでくるスタイルが今も続いており、飲み終わりたいときはコースターをグラスの上に載せるのが合図です。

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料理との相性では、ブラートヴルストなどのソーセージ類が定番です。麦芽の甘みがソーセージのスパイス感と調和し、ホップの苦みが脂を切ってくれます。豚すね肉のローストやドイツ風ポテトサラダとも好相性です。日本の食卓であれば、照り焼きや味噌を使った料理など甘辛い味付けの肉料理と合わせると、アルトの麦芽感が引き立ちます。

提供温度は8〜10℃が適しています。冷たすぎると麦芽の甘みやホップのハーブ感が閉じてしまい、ぬるすぎると苦みが前に出すぎます。

まとめ

この記事では、アルトビールの歴史と味わいの特徴、製法、種類、楽しみ方について解説しました。上面発酵と低温熟成を組み合わせた独特の製法により、エールの風味の豊かさとラガーのクリーンな飲み口を兼ね備えたビールです。普段ラガーを好む人にも、エールの世界を広げたい人にも新しい発見をもたらしてくれます。まずは日本のクラフトビールから試して、本場デュッセルドルフの味と比べてみるのも面白いかもしれません。他のビアスタイルとの違いも知りたい方は「ビールの種類と特徴〜スタイルごとの違いと奥深い味わい〜」をご覧ください。