ラガーとエールを分ける発酵方式の違い

ビールの種類は大きくラガーとエールの2つに分かれます。この分類を決めるのは、醸造に使う酵母の種類と発酵の温度です。

ラガーは下面発酵酵母を使い、5〜10℃の低温でゆっくり発酵させます。低温で発酵するため酵母由来の香り成分の生成が抑えられ、すっきりとした味わいに仕上がります。日本の大手ビールメーカーが造るビールの大半はラガーに分類されるため、多くの人にとってなじみのある味です。

エールは上面発酵酵母を使い、15〜25℃のやや高い温度で発酵させます。酵母が活発に働くことで、フルーティな香りやスパイシーな風味が生まれます。同じ原料でも酵母と温度が違えば味は大きく変わります。発酵中に酵母が生成するエステルやフェノールといった香り成分の量が異なるためです。

ラガーとエールの違いを表で整理します。

※横にスクロールできます

ラガーエール
酵母下面発酵酵母上面発酵酵母
発酵温度5〜10℃15〜25℃
味わいの傾向すっきり・爽快香り豊か・個性的
代表スタイルピルスナー、シュヴァルツペールエール、IPA、ヴァイツェン、ポーター、スタウト、アルト

とはいえ、すべてのビアスタイルで発酵方式が厳密に定められているわけではありません。たとえばポーターは本来エールですが、バルト海沿岸では下面発酵で造られる「バルティックポーター」がひとつのスタイルとして確立しており、派生スタイルが別のカテゴリーに属することもあります。

このように、ラガーとエールの二分類はあくまで入口の枠組みであり、実際のビアスタイルには派生や例外も存在します。まずは大枠を押さえたうえで、スタイルの成り立ちを掘り下げていくと、ビールの世界がより立体的に見えてきます。

ビールは発酵方式によってラガーとエールの2系統に分かれ、ラガー系にはピルスナーとシュヴァルツ、エール系にはペールエール・IPA・ヴァイツェン・スタウト・ポーター・アルトが属している

爽快さが持ち味のラガー系スタイル

ラガー系のビアスタイルに共通するのは、クリアな味わいと飲みやすさです。低温発酵によって酵母の個性が抑えられるため、麦芽やホップの風味がストレートに感じられます。

ピルスナー

ピルスナーは世界で最も広く飲まれているビアスタイルです。1842年にチェコのピルゼンで誕生し、淡い黄金色の外観、きめ細かな泡、ホップの程よい苦味が特徴です。日本で「ビール」と聞いてイメージする味に最も近いスタイルといえます。発祥地チェコのボヘミアンピルスナーは、モルトのふくよかな甘みとザーツホップのスパイシーな香りが調和した味わいです。一方、ドイツのジャーマンピルスナーはよりドライで、ホップの苦味をシャープに効かせたキレのある仕上がりになっています。ピルスナーの種類や楽しみ方について詳しくは「ピルスナーの特徴と種類〜黄金色で爽快なビール〜」をご覧ください。

シュヴァルツ

シュヴァルツはドイツ語で「黒」を意味するビアスタイルです。見た目は黒いのに味わいは軽やかで、焙煎した麦芽のチョコレートやコーヒーを思わせる香ばしさがありつつも、ラガー酵母による下面発酵ですっきりとした後味に仕上がります。黒ビール=重いというイメージを覆すスタイルで、ラガーの飲みやすさと焙煎香の両方を楽しめます。シュヴァルツの種類や楽しみ方について詳しくは「シュヴァルツの特徴と種類〜黒色でスッキリしたビール〜」をご覧ください。

香りと個性が広がるエール系スタイル

エール系のビアスタイルは、酵母が生む豊かな香りと個性的な味わいが魅力です。高温発酵によって酵母がフルーティなエステルやスパイシーなフェノールといった香り成分を多く生み出すため、軽やかなものから重厚なものまで、個性の幅が広いのが特徴です。

ペールエール

ペールエールはイギリスで生まれたエールの代表格です。ホップの香りとモルトの穏やかな甘みのバランスが特徴で、本家イングリッシュスタイルはハーブ調の落ち着いた香り、派生したアメリカンスタイルは柑橘系の華やかな香りと、産地によって表情が異なります。「ペール」は淡いという意味で、当時主流だった濃色のビールに比べて色が淡かったことに由来します。ペールエールの種類や楽しみ方について詳しくは「ペールエールの特徴と種類〜華やかな香り広がるビール〜」をご覧ください。

IPA

IPAはペールエールをベースにホップを大量に使ったスタイルで、18〜19世紀のイギリスで誕生しました。ホップの華やかな香りとはっきりとした苦味が持ち味で、本家イングリッシュIPAはハーブや土を思わせる落ち着いた香り、派生したアメリカンIPAは柑橘やトロピカルフルーツを思わせる鮮烈な香りと、産地によって表情が異なります。IPAの種類や楽しみ方について詳しくは「IPAの特徴と種類〜強烈なホップが香るビール〜」をご覧ください。

ヴァイツェン

ヴァイツェンは小麦麦芽を50%以上使ったドイツ発祥のビアスタイルです。専用の酵母が生み出すバナナのようなフルーティな香りとクローブのようなスパイシーな風味が特徴で、ホップの苦味が少なくまろやかな口当たりに仕上がります。酵母を濾過せず白く濁った「ヘーフェヴァイツェン」が一般的ですが、濾過して透明に仕上げたすっきり系の「クリスタルヴァイツェン」もあります。ヴァイツェンの種類や楽しみ方について詳しくは「ヴァイツェンの特徴と種類〜フルーティな小麦香るビール〜」をご覧ください。

ポーター

ポーターは18世紀のロンドンで誕生したビアスタイルで、荷運び人「ポーター」に愛飲されたことが名前の由来とされます。焙煎麦芽由来のコーヒーやチョコレートを思わせる香ばしさと、モルトの甘みが感じられるコク深い味わいが特徴です。黒ビールの中でも苦味は比較的控えめで、なめらかな飲み口に仕上がります。ポーターの種類や楽しみ方について詳しくは「ポーターの特徴と種類〜マイルドな焙煎香広がるビール〜」をご覧ください。

スタウト

スタウトはポーターから派生したスタイルで、名前は英語で「頑丈な・力強い」を意味します。コーヒーやチョコレートのような焙煎由来の風味が持ち味で、ギネスに代表されるドライスタウトから、乳糖を加えたミルクスタウト、高アルコールのインペリアルスタウトまで種類も豊富です。スタウトの種類や楽しみ方について詳しくは「スタウトの特徴と種類〜濃厚なコクと焙煎香広がるビール〜」をご覧ください。

アルト

アルトはドイツのデュッセルドルフで生まれたビアスタイルです。アルトはドイツ語で「古い」を意味し、近代のラガー以前から続く上面発酵の伝統を指しています。エールでありながら低温で長期熟成させるため、エールの風味の豊かさとラガーのすっきり感を兼ね備えた独特の味わいに仕上がります。赤銅色〜琥珀色の外観で、焙煎モルトのコクとしっかり効いたホップの苦味のバランスが持ち味です。アルトについて詳しくは「アルトの特徴と種類〜琥珀色でまろやかなビール〜」をご覧ください。

02_deco-amber-ale-glass.webp

ビアスタイル別の味わいの特徴を比較する

ここまで紹介したビアスタイルの味わいの傾向を表で整理します。

※横にスクロールできます

スタイル分類苦味コク香りの特徴
ピルスナーラガー淡い黄金色軽いホップの爽やかな苦味
シュヴァルツラガー弱〜中軽い〜中焙煎麦芽の香ばしさ
ペールエールエール琥珀〜銅色ハーブ調〜柑橘系のホップ
IPAエール黄金〜琥珀色強いハーブ・土〜柑橘・トロピカル
ヴァイツェンエール白濁〜薄黄弱いバナナ・クローブ
スタウトエール中〜強重いコーヒー・チョコレート
ポーターエール濃褐〜黒中〜重モルトの甘み・穏やかな焙煎香
アルトエール赤銅〜琥珀色焙煎モルトのコク

苦味の強さで見ると、IPAが突出しています。一方、ヴァイツェンはほとんど苦味がなく、フルーティな味わいです。コクの重さでは、スタウトやポーターが重厚で、ピルスナーやシュヴァルツは軽快です。同じ黒ビールでもシュヴァルツとスタウトでは飲み口がまったく異なるため、色だけで味を判断できないことがわかります。黒ビールの種類について詳しくは「黒ビールの種類と特徴〜麦芽の焙煎が生む風味の違いと味わい〜」をご覧ください。

好みに合うビールの見つけ方

ビールの種類が多すぎて迷うときは、自分の好みの軸を1つ決めて絞り込むと選びやすくなります。

苦味に対する好みが最もわかりやすい基準です。苦味が好きならIPAやペールエールが合います。苦味より香りを楽しみたいならヴァイツェン、すっきりした飲み心地を優先するならピルスナーやシュヴァルツが候補になります。

季節や料理に合わせて選ぶ方法もあります。暑い日にはピルスナーのキレのよさやヴァイツェンのフルーティな軽やかさが心地よく、寒い季節にはスタウトやポーターの重厚な味わいがじっくり楽しめます。肉料理にはIPAやペールエールのホップの苦味が脂を切り、魚介料理にはピルスナーのすっきりした味わいが引き立て役になります。

近年はクラフトビールの広がりによって、日本国内でも多様なスタイルを手軽に試せるようになりました。ビアスタイルの特徴を知ったうえで実際に飲み比べると、自分の好みの方向性がはっきり見えてきます。

まとめ

この記事では、ビールの分類の仕組みと主要8スタイルの特徴、好みの見つけ方について解説しました。色が濃いから重いとは限らず、エールだから個性が強いとも限らないのがビールの奥深さです。苦味・コク・香りのどれを手がかりにするかで、候補は自然と絞り込めます。ビアバーやクラフトビール売り場で迷ったときは、この記事を参考に一杯を選んでみてください。