この記事では、オランダビールの特徴と種類をその歴史からひもときます。世界的に有名なブランドを多数生み出してきたオランダのビール文化は、スッキリと飲みやすいラガースタイルを得意としています。歴史を知ることで、オランダビールの魅力が見えてきます。
中世から続くオランダのビール醸造
オランダのビール醸造の歴史は中世にまでさかのぼります。中世ヨーロッパでは飲み水の衛生状態が悪く、醸造過程で煮沸するビールのほうが安全な飲み物でした。オランダでもビールは日常的な飲料として広く消費され、各地に醸造所が立ち並んでいました。
当時のオランダでは、ホップではなくグルートと呼ばれるハーブの混合物でビールに風味をつけていました。グルートにはヤチヤナギなどのハーブが含まれ、その調合と販売権は領主が独占していました。グルート権はビール醸造に課す一種の税として機能しており、領主にとって重要な収入源でした。
14〜15世紀にかけてホップの使用が広まると、保存性と風味の両面でホップが優位となり、グルートは徐々に姿を消しました。
なかでもハールレムは中世オランダを代表するビール醸造の中心地でした。14世紀にはすでに醸造の記録が残っており、17世紀のオランダ黄金時代には大量のビールが醸造されていたとされます。この時代のオランダは海上貿易で富を蓄え、ビールも北欧やバルト海沿岸諸国に向けて盛んに輸出されました。
19世紀に入ると産業革命の波がビール醸造にも押し寄せます。冷蔵技術の発達により、それまで冬季にしかできなかった低温発酵のラガー醸造が通年で可能になりました。オランダでもラガーが主流となり、すっきりとした飲み口のピルスナースタイルが急速に広まっています。この時期に近代的な大規模醸造所が相次いで誕生し、現在のオランダビール産業の基盤が形づくられました。

オランダビールの特徴と軽快なラガーが生まれた理由
オランダビールの特徴は、軽快でクリーンなラガースタイルに集約されます。なかでもラガーの一種であるピルスナーが国内ビール消費の大部分を占めており、この傾向にはいくつかの歴史的・地理的な背景があります。
オランダは古くから貿易立国でした。17世紀の東インド会社に象徴されるように、オランダ人は商品を世界に売ることに長けています。ビールも例外ではなく、国内消費だけでなく輸出を前提とした醸造が早くから意識されてきました。
輸出向けのビールには万人に受ける味わいが求められるため、クセが少なくすっきりとしたラガースタイルが発展しました。実際、オランダは現在も世界有数のビール輸出国であり、生産量の半分以上が海外に出荷されています。
20世紀に入ると醸造所の統合がさらにこの傾向を加速させます。合併と淘汰を繰り返した結果、醸造所の数は大幅に減少しました。ハイネケンをはじめとする大手数社が市場を寡占し、大量生産に適した均質なピルスナーが主流になります。こうしてオランダビールは「軽快なラガーの国」という性格を強めていきました。
ドイツは純粋令のもとで多彩なスタイルを育て、ベルギーは修道院文化や野生酵母で独創的な醸造を追求しています。一方、オランダは輸出志向の軽快なラガーに特化する道を歩みました。ドイツのビール文化との違いについては「麦芽100%の本場ドイツビール!歴史が育んだ種類と味わい」を、ベルギーのビール文化との違いについては「多彩で独創的なベルギービール!歴史が育んだ種類と味わい」をご覧ください。
オランダを代表するビールブランド
オランダのビール市場はハイネケン・グロールシュ・アムステル・バイエルンの4大ブランドが中心です。それぞれ創業時期も味わいの方向性も異なり、比較するとオランダビールの幅が見えてきます。
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| ブランド | 創業年 | 発祥地 | 味わいの傾向 |
|---|---|---|---|
| ハイネケン | 1864年 | アムステルダム | 軽い果実香、すっきりした苦み |
| グロールシュ | 1615年 | フルンロー | しっかりしたモルト感、バランス型 |
| アムステル | 1870年 | アムステルダム | マイルドで軽やか |
| バイエルン | 1719年 | リースハウト | 穏やかな麦芽の甘み、飲みごたえ |
いずれもピルスナーが主力商品ですが、ブランドごとに味わいの個性が異なります。よく冷やしたグラスに注ぐと泡立ちや色合いにも違いが表れ、飲み比べの楽しさが増します。
ハイネケン
ハイネケンは1864年、22歳のジェラルド・アドリアーン・ハイネケンがアムステルダムの醸造所「デ・ホーイベルフ」を買収して創業しました。19世紀にハイネケンの研究所で開発された「ハイネケンA酵母」は、クリーンで微かな果実香を持つ独自の風味を生み出し、現在も使われ続けています。
ハイネケンが世界的ブランドに成長した理由は、品質管理と輸出戦略の両立にあります。早くから海外市場の開拓に力を入れ、現在は170カ国以上で販売されています。緑色のボトルと赤い星のロゴは世界中で認知されており、スポーツイベントや音楽フェスティバルのスポンサーとしても存在感を示しています。
グロールシュ
グロールシュは1615年にオーファーアイセル州グロール(現グロエンロ)でウィレム・ネールフェルトが創業した、オランダで最も歴史の長いビールブランドの一つです。ブランド名は創業地グロールに由来します。スイングトップ式の陶器製ストッパーがついたボトルはグロールシュの象徴で、19世紀から使われています。
グロールシュ・プレミアムラガーは、ハイネケンと比べるとモルトの風味がしっかりしており、ホップとのバランスが取れた飲みごたえのあるラガーです。オランダ国内ではハイネケンに次ぐ知名度を持ち、特に東部地域で根強い人気があります。
アムステル
アムステルは1870年にアムステルダムのアムステル川沿いに設立された醸造所に由来します。ブランド名はアムステルダムを流れるアムステル川から取られました。1968年にハイネケンに買収され、現在はハイネケン社の傘下ブランドとして世界各国で販売されています。
味わいはハイネケンよりも軽くマイルドで、苦みが穏やかです。ホップの主張が控えめなぶん食事との相性がよく、価格帯も手頃なため、オランダ国内では日常的なビールとして幅広い層に親しまれています。
バイエルン
バイエルンは北ブラバント州リースハウトに本拠を置くスウィンケルス家のビールブランドです。7世代にわたって家族経営を続けており、大手ビール会社としては珍しい独立系ブルワリーです。現在の社名はロイヤル・スウィンケルス・ファミリー・ブルワーズに変更されていますが、バイエルンのブランド名は広く使われています。
バイエルン・プレミアムピルスナーは穏やかな麦芽の甘みとすっきりした後味が特徴で、派手さはないものの飲み飽きしない味わいです。大手が効率重視で均質なラガーを量産するなかで、家族経営ならではの丁寧な醸造を守り続けている点がこのブランドの個性です。オランダ南部を中心に根強い支持を集めています。

近年盛り上がるオランダのクラフトビール
長らく大手ピルスナーが圧倒的だったオランダのビール市場に、変化が訪れています。1980年にビール消費者団体PINTが設立されたことをきっかけに、小規模醸造所の復活が始まりました。2012年時点で約180だった醸造所数は2023年には900を超え、10年余りで5倍以上に増加しています。
アムステルダムのBrouwerij 't IJやロッテルダムのKaapse Brouwersなど、各都市に個性的なクラフトブルワリーが誕生しています。スタイルの面でもIPA、ウィットビール、サワーエールといったピルスナー以外の選択肢が急速に広がり、地域ごとの個性も際立ってきました。なかでも北ブラバント州は216の醸造所を抱えるオランダ最大のビール醸造地域で、ラ・トラップやズンデルト修道院など、世界でも珍しいトラピストビールの醸造所が2か所あります。
とはいえ、ピルスナーが国内消費の大部分を占める構造は依然として変わっていません。クラフトビールのシェアは拡大傾向にあるものの、オランダのビール文化の中心はあくまで軽快なラガーです。
まとめ
オランダビールの特徴と種類をその歴史からたどりました。中世のグルート醸造から黄金時代の輸出産業を経て確立されたラガー中心の文化が、スッキリ飲みやすいビールを得意とするオランダの個性を形づくっています。一口にピルスナーといってもブランドごとに味わいの個性は異なり、飲み比べるとその奥深さが実感できます。近年はクラフトビールの台頭でさらに選択肢も広がっており、歴史を知ったうえで飲むと、オランダビールの魅力がより深く楽しめます。各国のビール文化の違いについて詳しくは「世界を旅するビール!国ごとに違う特徴と多様な種類」をご覧ください。