グラッパとは

グラッパは、ワイン造りで生じるぶどうの搾りかす(ポマース)を蒸溜して造るイタリアのブランデーです。ぶどうを圧搾してワインを造ったあとに残る皮・種・果梗を原料とし、農業副産物を無駄なく活かすイタリアの農村文化から生まれました。

グラッパという名前は、ぶどうの房を意味する中世ラテン語「grappolus」に由来するとされています。蒸溜の技術は中世に中東から欧州に伝わり、14〜15世紀ごろには北イタリアのアルプス山麓でポマースの蒸溜が行われていたという記録が残っています。当初は農民や兵士が消費する粗野な蒸溜酒でしたが、1973年にノニーノ蒸溜所が単一品種グラッパを生み出したことを契機に品質革新が進み、現在では世界的に評価される高品質な蒸溜酒へと成長しています。

こうした歴史と産地を守るため、1989年のEEC規則No 1576/89でイタリア産のポマース蒸溜酒のみに「グラッパ」の名称使用が限定され、2008年のEC規則No 110/2008によって地理的表示(GI)として正式に保護されました。現在はEU規則2019/787のもとで管理されており、イタリア本土・イタリア語圏スイス・サンマリノで生産されたものだけが「グラッパ」を名乗ることができます。

グラッパは14〜15世紀に北イタリアのアルプス山麓でポマース蒸溜が始まり、1973年にノニーノ蒸溜所が単一品種グラッパで品質革新を起こし、1989年のEEC規則No 1576/89でイタリア産に名称が限定され、2008年のEC規則No 110/2008で地理的表示として保護され、現在はEU規則2019/787で管理されている

EU規則が定めるグラッパの条件

EU規則2019/787では「グラッパ」を名乗るための主な条件が以下のとおり定められています。

  1. イタリア・イタリア語圏スイス・サンマリノの3つのいずれかの地域で製造されたぶどうの搾りかす(ヴィナッチャ)を原料とすること
  2. 最初の蒸溜はヴィナッチャを加えた状態で行うこと
  3. すべての蒸溜工程でアルコール度数86%未満であること
  4. 澱を添加する場合はヴィナッチャ100kgあたり25kg以内とし、澱由来のアルコール量が最終製品の総アルコール量の35%を超えないこと
  5. ボトリング時のアルコール度数が37.5%以上であること
  6. 伝統的製法による風味付け以外のフレーバー添加禁止
  7. カラメル以外の着色禁止

上記以外にも、メタノール含有量の上限など細かな規定があります。これらの条件を満たさないポマース蒸溜酒はEU規則上「grape marc spirit」としか表示できません。なお日本とEUの間にグラッパの名称を保護する協定がないため、グラッパという名称は日本では法的に保護されておらず、国内で製造されたポマース蒸溜酒にもグラッパと表示することができます。

グラッパの味わいは主に原料と蒸溜方法によって決まります。

原料となるヴィナッチャはぶどうの品種によって含まれる香り成分が異なり、グラッパの風味に直接反映されます。アロマティック品種(モスカートやゲヴュルツトラミネールなど)のヴィナッチャからはフローラルでフルーティーな香りが生まれ、赤ワイン用品種(ネッビオーロなど)からはより力強くスパイシーな風味が生まれます。

蒸溜には銅製の蒸溜器が用いられます。銅には硫黄化合物を吸着・除去する性質があり、不快な風味を取り除いてクリーンな酒質に仕上げます。蒸溜方式は連続式と非連続式があり、非連続式は香り成分が豊かに残る一方、連続式はよりクリーンでライトな酒質になります。

ヴィナッチャの蒸溜が生むグラッパ独自の製法

グラッパの原料となるヴィナッチャは、ワイン造りでぶどうを圧搾したあとに残る主として皮・種からなる搾りかすです。ぶどう果汁を蒸溜するコニャックやアルマニャックとは原料の性質が根本的に異なります。固形物主体の原料を蒸溜するため、独自の工夫が求められます。

赤ワイン用のヴィナッチャはすでにアルコール発酵を終えた状態で蒸溜所に届くため、そのまま蒸溜に回せます。一方、白ワイン用のヴィナッチャは果汁を早い段階で分離するため、未発酵の状態で届きます。蒸溜前に発酵させる工程が別途必要です。

いずれの場合もヴィナッチャの鮮度がグラッパの品質を大きく左右します。搾りかすに残る水分と糖分は微生物の作用を受けやすく、時間が経つと酢酸や雑味の原因となる成分が増えてしまいます。

蒸溜方法の違いもグラッパの味わいに直結します。伝統的な製法では単式蒸溜器が使われ、加熱方式によって風味の方向性が変わります。直火式はヴィナッチャを焦がしやすく温度管理が難しいため、現在はほぼ廃れています。

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加熱方式特徴味わいの傾向
直火式ヴィナッチャに強い熱が直接伝わる焦げた風味が出やすい
蒸気式間接加熱で穏やかに熱を伝える穏やかで滑らかな風味
バニョマリア式蒸溜器を湯で包んで加熱する最も繊細で原料の香りを活かせる
連続式大規模生産向けの連続蒸溜クリアで軽い仕上がり

現在イタリアのグラッパの90%以上は蒸気式で造られています。バニョマリア式は最もゆっくりと丁寧に加熱できるため、原料ぶどうの繊細な香りを活かした高品質なグラッパに採用されています。連続式蒸溜器は効率に優れますが、品種ごとの個性は出にくくなります。

グラッパの種類

グラッパは熟成期間、ぶどう品種の使用数、ぶどうの品種、フレーバー添加の有無によって種類が分かれます。無色透明でフレッシュなタイプから深い琥珀色の長期熟成タイプまで、同じグラッパでも味わいの幅は広いです。

熟成期間による分類

熟成期間の違いによって、グラッパは大きく3つのカテゴリに分かれます。

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カテゴリ熟成期間外観味わいの特徴
ジョーヴァネなし(短期保管のみ)無色透明ぶどう品種の個性がダイレクト
インヴェッキアータ木樽12か月以上淡い琥珀色バニラやスパイスが加わる
ストラヴェッキア/リゼルヴァ木樽18か月以上琥珀色が深まる樽由来の複雑な香味

ジョーヴァネは熟成を行わず、ステンレスやガラスなど風味に影響しない容器で短期間保管したグラッパです。ぶどう品種由来の香りがそのまま感じられるため、グラッパの個性を最もダイレクトに体験できます。グラッパ全体の生産量でもこのタイプが大半を占めています。

インヴェッキアータは木樽で12か月以上熟成させたグラッパです。樽材の成分が溶け出し酸化が進むことでバニラやスパイスの風味が加わり、色は淡い琥珀色を帯びます。ジョーヴァネのフレッシュさと比べると穏やかで丸みのある味わいです。

ストラヴェッキアまたはリゼルヴァは18か月以上の樽熟成を経たグラッパで、インヴェッキアータよりさらに琥珀色が深まります。長期間の熟成により樽由来の複雑な香味とぶどうの果実感が溶け合い、重厚な味わいに仕上がります。

ぶどう品種の使用数による分類

グラッパはぶどう品種の使用数によっても分類され、使用品種の数と個性がグラッパの味わいを大きく左右します。

単一のぶどう品種のヴィナッチャを85%以上使用して造るグラッパはモノヴィティーニョと呼ばれ、ラベルには「Grappa di Moscato」「Grappa di Nebbiolo」のようにぶどう品種名が表記されます。

品種を限定することで、そのぶどう固有の香りと味わいがグラッパに反映されます。モスカート種なら白い花や柑橘の甘い香り、ネッビオーロなら赤い果実やタール、スパイスの力強い風味が特徴です。

複数品種をブレンドしたポリヴィティーニョは、複数品種が組み合わさることで複雑で豊かな味わいを生み出します。一方、モノヴィティーニョは品種の個性を前面に押し出す設計です。同じ生産者が品種ごとにグラッパを造り分けることも珍しくなく、飲み比べで品種の違いを実感できます。

ぶどう品種による分類

グラッパはぶどうの芳香性によっても分類され、アロマティック品種またはセミアロマティック品種のヴィナッチャから造られるものをアロマティカと呼びます。モスカートやゲヴュルツトラミネール、マルヴァジアなどがその代表的な品種です。品種由来のフローラルでフルーティーな香りが際立つのが特徴で、品種の香りを活かすため熟成を行わずジョーヴァネとして仕上げることが多いです。

フレーバー添加による分類

蒸溜後にハーブや果実などの天然素材を浸漬して風味を加えたものをアロマティッツァータと呼びます。この製法はイタリアの蒸溜酒文化に古くから根付く伝統的なもので、EU規則でも認められています。リコリス、ルー、ブルーベリーなど使用する素材によって香りと色が大きく変わり、ベースとなるグラッパの風味に素材由来の香りと味わいが加わります。通常のグラッパと比べて親しみやすく、より気軽に楽しめるスタイルです。

素朴な木のテーブルに置かれたチューリップ型グラスのグラッパとぶどうの房、背景にイタリアのぶどう畑

まとめ

グラッパは、ワイン造りの副産物であるヴィナッチャを原料とし、EU規則によって産地と製法が保護されたイタリア独自のブランデーです。ぶどう品種ごとに異なる香味成分がグラッパの風味を方向づけ、蒸気式やバニョマリア式といった加熱方式の選択が酒質の繊細さを左右します。さらに、熟成を行わないジョーヴァネから18か月以上樽で寝かせるストラヴェッキアまで、熟成期間によって味わいの表情は大きく変わります。モノヴィティーニョで品種の個性を味わうもよし、アロマティッツァータで気軽に楽しむもよし、多彩なスタイルの中からぜひ自分好みの一杯を探してみてください。他のブランデーの種類も知りたい方は「ブランデーの種類と定義〜産地と原料で異なる味わいと特徴〜」をご覧ください。